鳥羽史郎2
平成15年12月、年の瀬の慌しい金曜日のことでした。
私の診療所は朝10時からですが、患者さんはいつも9時半頃から来院されているようで、当日もいつものように毎週来られている患者さんは、私が診療所に着いた時待合室の長イスのいつもの位置に腰かけておられました。その患者さんは5年程前に御主人を亡くされ、2人の子供さんは独立され別々に家庭を持たれているようでした。ひとり暮らしで時間をもて余している為か、いつも一番早い予約をされていたようです。当院に通院され始めて10年近くなり、私は私自身の歯よりも詳しく把握している位でした。
年末の上、週末ということで交通量はいつもより多く、診療室でもトラックのクラクションや排気音、ディーゼルエンジンの騒音など聴こえ、混雑ぶりが推し量れる程でした。材料屋さんが2時間位遅れてやって来て“先生、人身事故があって車が全く動きませんわ。”と怒っていたのです。その時は特別に気に留めることもありませんでした。
ところが翌日、お孫さん2人の真中でほほえんでいるおばあさんの写真を持った警察署の方が訪ねて来られました。私に“このおばあさんご存じないですか”と聞かれるのです。
一瞬、身の毛がよだちました。昨日の交通事故の被害者が、10年来、金曜日の朝一番の患者さんだったのです。その方は事故による顔の損傷がひどく親族でさえ本人確認は無理ということで私の所へ来られたのです。
後日、専門の係官立ち会いのもと、歯科医の立場から歯及びその装着物等から本人であることの証明をさせていただきました。交通事故の現実に直面し、怖さを実感し、人の命の果敢なさを知らされた開業以来初めての最もつらい仕事でした。
心よりご冥福をお祈りいたします。
 
(2004年1月掲載)

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