私が運転免許証を取得したのは昭和44年。その後池田市へ引越したので、マイカー通勤で阪神高速道路池田線を利用するようになって27年になる。
当時は現在と違って高速道路も今ほど混雑していなかったし中国道で猪が車とよく衝突するのが話題になった頃である。マイカー通勤するようになったのは単に通勤時間の問題からである。車なら池田大阪間は事故や渋滞がなければ40分、電車で1時間20分。事情が許せば誰でも車を利用する筈である。
ちなみに大阪池田間の私の最短所要時間は21分。最長記録は高速道路の凍結閉鎖の影響で身動きがとれず4時間を要したこともある。昔暖冬期を除き年1〜2回池田線は凍結閉鎖されたものだが、ここ数年そのようなことはない。電車通勤の人と比べマイカー通勤の人が地球環境を汚していることは、程度の差は別にして高いことは理解できる。高速道路の凍結回数の減少は車社会のみならず全ての人間活動が原因の地球温暖化のせいであることは間違いない。
 
高速道路の運転は単調極まりないものだが、長年通っていると様々な事故現場に出会ったり、時には数分の差で大事故から免れる場合もある。また運転席から世の中の経済状況の変化や世相を垣間見ることができて非常に興味深い。景気の良い頃は一杯人を詰め込んだ建設関連の車がやたらと目に付いたものだが、バブル崩壊後そんな車はあまり目立たなくなった。またバブル前までは社用、私用を問わず、運転士つきの車で後部座席に悠然と座し、新聞を読みながら通勤するどこかのエライさんの姿をよく見かけたものだが、ここ数年そんな車はめったにお目にかからなくなった。私も20年前にはいつか自分も運転士つきの車で診療所へ通勤しようと考えたものだが、夢のままで終わってしまった。
 
さて私が長年マイカー通勤してきた間に、ひとつだけ忘れようとして忘れられない出来事がある。随分古い話で15年位前になるだろうか、私が働き盛りの頃である。いつものように午前7時頃自宅を出て空港線に入る。料金所を出て2〜3分走ると、100メートルほど前方に走行車線を個人タクシーが走っているのを確認。そんなにスピードは出ていなかったように記憶しているが、走行中のタクシーの後部ドアが少し開いたような気がした。不思議に思いタクシーを注目していたところ、突然ドアが開き、黒い物体が道路上に転がり落ちたのである。とっさにハンドルを右に切りその物体との衝突を回避。その直後タクシーは急停車したので私もその前方に急停車。車を降りタクシーに近づくと、初老の運転手さんが顔面蒼白で私に助けを求めに来たのである。事情を聞いてみるとその客を乗せたときから気味の悪い客だと思いながらも、言われるままに運転していたところ突然後部座席から外へ飛び出したとのことで、黒い物体は実は人間だったのである。
恐る恐る近づくと、黒い服を着た男が高速道路に横たわっている。このままでは危険なので追い越し車線を走っている車に110番通報をと手を上げるが、止まってくれる車はない。そうこうするうち道路上の、多分ひどい怪我をしている筈の男がむっくりと起き上がったのである。その顔は今でも忘れることは出来ないが、髭は濃く青白い顔で年齢は50才位、目は宙に浮き赤く充血。私の直感で薬物中毒か精神障害の人間に違いないと考えた。その男をとにかくタクシーへ連れ戻そうと2人で近づいたその瞬間、いきなり男は大阪方面へ走り出したのである。2人で必死に追いかけ、やっと男に追いついた直後、何と男は10メートルを越える高速道路の側壁から大の字になって高架下へダイビング。上から覗いてみると、高速道路と並走している下の道路にたたきつけられ身動きひとつしない様子。高速道路の下を走っている車の運転手は、上から人間がふってくるとは考えもしないことで、さぞや驚いたに違いない。
当時は現在のように携帯電話も普及していなかったし、どうしたものか2人で困り果てていた所へ、空港リムジンバスが停車。「どうしましたか」とバスの運転手が一声かけてくれた時は本当に一安心。事の次第を話すと、すぐバスの無線で110番しますとの言葉に安堵の胸をなでおろす。
タクシーの運転手さんの話では、乗客にもしものことがあると運転手の業務上の責任が問われるとのことである。私が一部始終を目撃しているのでその心配はないと告げ、私の名刺を渡し、もし何かあればご連絡下さいと伝えてその場を立ち去ったのである。診療所へ到着後念のため110番。午前10時頃男は病院に収容され、腰を打っただけで生命に別条はないとの110番からの電話があった。
その出来事から10日程して運転手さんから突然の電話があった。お礼の言葉のあと、あの事件以来、右手をひどく痛め仕事を休んでいるとのこと。今は近所の親切な人に助けられ何とかその日をしのいでいるとの話である。男は実は薬物中毒者や精神障害者でもなく自殺をはかったようで、死に場所を探して放浪中偶然タクシーに乗り込んだらしく、本当に不運なのは運転手さんである。自殺の原因を聞いてみると、男は天涯孤独の身で、気が狂う程の孤独に耐えかねて自殺をはかったとのことである。
運転手さん自身も遠くへ嫁いだ娘が1人いるだけで身寄りも知り合いも無く、その男の境遇とほとんど変わらない。しかし一生懸命頑張って生きているのに何故自殺をはかったのか残念でならないとの話であった。
人間誰しも孤独を味わうことはあるが、私も死ぬ程の孤独を味わったことはない。今も私の脳裏から離れることはないが、何とも気の滅入る悲しい出来事であった。幸いにもその後は大きなトラブルに会うこともなく、無事にマイカー通勤できる幸運に感謝したい。
 
往復80分の通勤時間は少々退屈することもあるが、音楽を聞いたり、ニュースを聞いたりと退屈しすぎることはない。最新のトピックスやミュージック。これからどんな歌がはやり出すか、いち早く情報をキャッチできるのは楽しい。
今年の夏少し気がかりなことがひとつ。どういう訳か高速道路の事故、トラブルがやたらと多いように感じている。暑さが特に厳しく人も車もバテているのであろうか。それとも先の見えない経済不況による暗い世相の一端が表れているのであろうか、その理由は定かではない。
事故と言えば最近高速道路でも女性ドライバーを随分見かけるようになった。しかし女性は平均して慎重運転が多く大事故は少ないようである。ごくまれにかなり年配のご老人が制限速度より遅いスピードで高速道路を運転するのを見かけるが、無事故を祈りたい気持ちになる。私も80才近くまで運転できそうな気もするが、それまでに家族やまわりの人から運転をやめるようアドバイスを受けたときはやめるつもりでいる。もし大正区歯科医師会の先生方で私の運転に危険を感じた時はご遠慮なく、直接的、間接的でも結構ですから、いつでもご忠告頂ければ有り難い。
 
今日一日無事に運転を終えるよう祈りながらマイカー通勤を続ける毎日である。
(2001年8月16日)

お問合せ・ご相談はこちら

ご不明点などございましたら、お電話もしくはお問合せフォームよりお気軽にご相談ください。

お電話でのお問合せはこちら

080-9475-8727

大正区口腔ケアステーション

大阪湾に面する渡し舟の町、大正区歯科医師会のホームページです。
歯・口腔に関する情報や、区内の歯科医院案内をお届けします。皆様からのご意見・ご要望もお待ちしております。